10歳でプログラミング!?AI時代の旗手が「今だから言える」起業の話

株式会社ABEJA 代表取締役社長 岡田 陽介氏インタビュー(前編)

グーグルアナリティクスをはじめとするWEBページ解析ツールの活用が、企業のマーケティングに必要不可欠とされています。その中でも、進歩の度合いがめざましい人工知能(以下:AI)を駆使し、リアルな顧客データを取得・解析を行うサービスが注目され始めてきました。

そこで今回は、主にディープラーニングを中心としたAIの開発運用基盤「ABEJA Platform」を提供し、同技術を基盤に小売・流通業界、製造業界、インフラ業界に特化したSaaS「ABEJA Insight 」を提供する株式会社ABEJA 代表取締役社長 岡田陽介氏にインタビューを敢行。岡田氏がこれまで辿ってきた半生と、ビジネスにおけるAIの可能性、また起業を目指している人へのアドバイスなど、前後編に渡って創業手帳 代表の大久保が伺いました。

岡田 陽介(おかだ ようすけ)
株式会社ABEJA代表取締役社長。1988年愛知県名古屋市出身。10歳からプログラミングをスタート。高校でCGを専攻し、全国高等学校デザイン選手権大会で文部科学大臣賞を受賞。大学在学中、CG関連の国際会議発表多数。その後、ITベンチャー企業を経て、シリコンバレーに滞在中、人工知能(特にディープラーニング)の革命的進化を目の当たりにする。帰国後の2012年9月、日本で初めてディープラーニングを専門的に取り扱うベンチャー企業である株式会社ABEJAを起業。2017年には、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指し、他理事とともに設立し、日本ディープラーニング協会理事を務める。AI・データ契約ガイドライン検討会 委員 2017年12月-2018年3月、Logitech分科会委員 2018年2月〜継続中(2018年8月末時点)
インタビュアー 大久保幸世
GMOメイクショップ取締役として同社を、後発事業者の立場から、法人向けECシステムで導入22,000社の日本トップシェアまで押し上げる。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。豊富な事業運営・経営支援の経験を生かし、日本中の創業者へ「明日使える実践的な経営ノウハウ」を届け、日本企業の廃業率の低下・起業成功率の向上を通じて経済を活性化させることを使命としている。これまでに数百回に及ぶセミナーやTV出演の実績あり。ビズシード社創業後もベンチャーイベント・大学・ビジネススクールでの講演多数。

10歳の時に感じたコンピューターの可能性

大久保:岡田さんは、AIビジネスという先駆的な業界で活躍していらっしゃいますが、その業界に携わるようになったきっかけを教えてください。

岡田:きっかけは、私が小学5年生の時に、学校にコンピューターが導入されたことでした。当時はまだプログラミングなどを教えてくれる先生はいませんでしたから、自分でいろいろと触ってみて徐々に使い方を覚えていきました。インターネットによって全世界と繋がれることを知った時はものすごい衝撃を受けたことを今でも覚えています。

家庭と小学校を往復するような小さい世界で生きていた子供でしたから、その中にある広い世界が、私にはとても魅力的に映ったんです。こんな箱の中に想像を超えるような世界が詰まっているわけですから、驚くのも当然ですよね。それからはずっとパソコンのことばかり考えていて、どんどんのめり込んでいきました。

そうした生活を送る中で、中学生の時までは遊び程度でプログラミングをしてみたり、絵を書いてみたりして、パソコンをいじる日々を過ごしていました。どうしてこんな画像や映像が作れるのかが不思議で、独学でプログラミングも学びました。
このように、いろんなことができてしまうコンピューターのすごい能力や、秘められている無限の可能性について、だんだんと知れば知るほど、「もっと詳しくなりたい」となったのも当然のことだったと思います。

そして高校に進学する頃には、コンピューターサイエンスを本格的に学びたいと思っていまして、愛工大名電高校の情報科学科に入学しました。周囲はまだまだコンピューターに対する理解も浸透していませんでしたから、「普通科がいいのでは?」と反対もされましたが、結果的にはこの道に進んで良かったと思っています。

大学を中退して起業、そしてシリコンバレーへ

大久保:高校時代には、パソコン甲子園で優勝、またデザインコンテストで文部科学大臣賞も受賞と、順風満帆な経歴のような気がしますが、その後の岡田さんはどのような進路を進んだのですか?

岡田:私は兼ねてからデザインとプログラミングの両方に興味を持っていましたから、大学ではその二つの技術や知識を要するコンピューターグラフィックス(以下:CG)の研究をしていました。ハリウッド映画などでもCGはよく使われていましたから、今度はその映像技術に夢中になったわけです。

そして大学3年時には、今まで培ったコンピューターの技術によってビジネスができるのではないかと考え、大学を中退して起業しました。確かに自分の持っていた技術で思っていた通りのサービスを展開することはできましたが、儲けを出すというビジネス的な視点を持ち合わせておらず、あえなく失敗してしまいました。

ただ、挫折の原因はわかっていたので、落ち込んでいるヒマはありませんでした。ビジネスのノウハウを学ぶために次の進路を模索していたところ、ある会社の社長に出会いました。その方は私の熱意を真剣に考えてくれていて「うちで経営を学べばいい」とまでおっしゃっていただいたんです。

その誠意に感動して就職を決め、実際に広告営業からマーケティング、財務など経営のノウハウを学ばせていただきました。社長には本当に感謝しかありません。

大久保:なるほど、その経験が現在の会社経営に活かされているわけですね。それでは、いつ頃からAIをビジネスにしようと思っていたのですか?

岡田:実はAIとの出会いも前職での経験から影響を受けているんです。社長のご厚意で世界トップの技術者たちが集まるシリコンバレーへ派遣していただき、そこでディープラーニング(※1)の誕生を目の当たりにし、AIのビジネスへの活用を考え始めました。

シリコンバレーの技術者たちは、ただ頭が良くて腕がいいだけでなく、自分たちの技術力で世界を変えたい、という思いがとても強いものがありました。事実、AIの革新的な能力は皆さんも周知の通りです。「これを活用しない未来はない」と確信して帰国、そして現在の会社の立ち上げに至ります。

※1
ディープラーニング:人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習の手法のひとつ。第三次AIブームの急速な発展を支える技術であり、その進歩により様々な分野への実用化が進んでいる。

AIの必要性が認知されつつある今

ABEJAホームページより引用
大久保:御社の事業内容について教えてください。

岡田:私たちは、あらゆる産業においてAIを開発運用するための基盤「ABEJA Platform」をコア技術として提供しています。「ABEJA Platform」では、利用される企業が各社のビジネスに合わせた独自のアルゴリズム開発に注力できるよう、その業界における専門的なデータの取得、蓄積、学習、デプロイ、運用までをワンストップで行うことができます。おかげさまで現在はダイキンや武蔵精密工業、コマツ、東愛産業などの大企業をはじめ、100社以上に導入されています。

ABEJA Platformの概要(ABEJAホームページより引用)
ABEJA Platformの概要(ABEJAホームページより引用)

そして、このコア技術を元に各業界ですぐに使えるSaaSとして提供するのが「ABEJA Insight」です。例えば、小売・流通業向けの店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」では、店舗に設置したネットワークカメラをはじめとするIoTデバイスで取得したデータを、ディープラーニングなどの技術を使って解析し、来店人数や来店者の年齢性別推定、リピート推定や店内の導線分析など、従来取得できなかった実店舗における顧客の動向を定量化、可視化し、自動で施策の効果測定を行うことができます。

「ABEJA Insight for Retail」のシステム
(ABEJAホームページより引用)

現在のところ、グーグルアナリティクスをはじめとするWEBページアクセス解析ツールの利用が当たり前になってきている中、実店舗におけるデータ解析は進んでいない状況があります。これは目隠しをして運転しているようなもので、一歩判断を誤れば赤字転落になりかねません。

今までは経営者の勘や経験によって店舗運営が成功していても、二店舗、三店舗と事業拡大していくほど、客観的な数値データなしに店舗ごとの状況を把握することは難しくなる。そこで、よりスピーディーに、正確に情報処理が行うためにAIの活用が求められてくるのです。小売・流通業界向けのこのサービスは2015年10月より提供を開始しており、現在はパルコ、FrancFranc、ICI石井スポーツなど国内大手小売流通企業を中心に約100社520店舗以上(2018年8月末時点)に導入いただいております。

大久保:それだけ多くの企業が、すでにAIの必要性を感じ、実際に活用されているんですね。それでもAIへの理解が浸透するまでには大きな苦労もあったのでは?

岡田:おっしゃる通りですね。シリコンバレーから帰国後にまず思ったのは、AIのプラットフォームをサービスとして立ち上げることでした。そして現在の会社を創業しすぐに「ABEJA Platform」を開発しましたが、営業に行ってもまず理解してもらえませんでした。あの頃は導入事例もなかったですから当然と言えば当然なのですが。

それでも絶対にAIがこの先無くてはならない時代が訪れると思っていたので、何か良い方法がないかとアイデアを出し合っていました。そこで思いついたのが業界を絞ってアプローチすることでした。特に小売業の店舗であればカメラを置くことも抵抗はなくなってきていましたし、導入のしやすさが吉と出ました。またチェスや将棋などではAIが人間に勝利して話題になり、AIの能力の凄さが徐々に証明されてきたこともあって、多くの企業にAIが認めてもらえるようになったんです。

データは石油と同じ。生産性を劇的に変えることができる

大久保:ABEJAとしての今後の目標をお聞かせください。

岡田:AIが浸透してきたと言っても、まだまだ活用している企業はほんの一握りです。今後さらに技術が進歩していくのと同時に拡がっていくことは間違いないと思っています。その中で私たちができることは「草の根運動」です。

大企業は資本がありますから、自ずから「ABEJA Platform」のようなAIの開発運用基盤を駆使してAI開発に乗り込んでいくことが予想されます。しかし中小企業はそうもいきません。いきなり「AIどうですか?」なんて言ってもすぐに「開発しましょう」とはなりません。そこで「ABEJA Insight for Retail」のように低額で導入のハードルの低いAIの効果が試せるようなサービスを使って、徐々にAIの良さを実感してもらうことが大切だと思っています。そして、より専門的に活用する段階になったら独自のAIを開発するというプロセスを経ていくのだろうと思います。

そうすれば、日本におけるAI市場も大きくなり、日本全体の生産性を革命的に変えることができるようになると信じています。「ABEJA Platform」を使ってあらゆる産業で各社が「ABEJA Insight for Retail」のようなサービス、例えば「ABEJA Platform for Healthcare」みたいなものが独自に作られて、たくさん増えて行けば嬉しいですね。

もしそうなっていけば、さらにその先には各社が保有するデータ自体に新しい価値が見出せるのではないかと考えています。例えば、石油も出始めの頃は、ただの燃える水でしかありませんでした。それが、標準取引価格みたいなものを決めたことで流通が始まり、欠かせないエネルギー資源となりました。それと同じで、データも今はどのように使えるものか、まだふわふわした状態なんです。

けれども実は「Data is the new oil」と言われるように価値があって、それを私たちが定義してあげることで流通させることができるのではないかと思っています。そうすれば世界中で一番データが集まる場所が「ABEJA Platform」となり、その中心にABEJAがいる。そうなることが今後の目標ですね。

草の根運動でAIに「正しい価値」を見出す。昔の石油と同じように。

(取材協力:株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO兼CTO 岡田 陽介)
(編集:創業手帳編集部)
BB-WAVE掲載日:2018年10月17日

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