創業支援のキーマン!経産省 石井芳明が語る起業家向けの使える制度

企業のスタイルに合わせて使える制度をご紹介

日本の公的なベンチャー支援の軸になる経済産業省。そのキーマンである調整官・石井芳明氏は、普通の役人ではありません。異動が多い公的な世界の中で、創業支援関係の政策に一貫して携わっている経歴の持ち主です。日本の創業支援のキーマンが創業で使って欲しい支援策について、解説していただきました。

まずは公庫。事業計画書を1枚にまとめてみよう。

大久保:まず、起業家に使って欲しい創業支援は何でしょうか?

石井起業家に使って欲しい支援策のなかで、まず挙げたいのは日本政策金融公庫の創業融資です。創業関係で年間約2万件の融資を使っていただいています。資金調達の際に、気軽に窓口に相談に行って欲しいです。

大久保:起業家の方にもよく相談を受けますが、事業計画書を書くとイメージをまとめることができますよね。公庫の資料は1枚なので、コンパクトなのも好印象です。

外部からお金を融資してもらうには、仕入れなどの現実的なことについて、コンパクトに書かないといけません。起業についてフワッとした考えを持っていた方にとっては、やるべきことを明確にできて良いかなと思います。

石井:そうですね。さらに、公庫の担当とやり取りする際に、客観的にアドバイスしてもらえるので考えを整理するのに役立つと思います。

大久保:公庫の方って、お堅いイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実際はとても親切な方が多い印象です。相談デーをやっていたり。

石井:日本政策金融公庫は、もともと零細企業のファイナンスをお手伝いする国民公庫と中小・中堅企業を応援する中小公庫が合併して始まりました。なので、地域を支える小さなお店の開業はもちろん、海外を目指すスケールの大きい起業家にも対応しています。

公庫の良い点は、全国的に担当のサービス内容、レベルが揃っていることでしょうね。
地方銀行、信用金庫、信用組合も素晴らしいところが多くあります。中小企業や零細企業に親切・丁寧に対応する金融機関も増えてきました。一方でまだそれぞれの金融機関で、ばらつきがあります。公庫は逆に、全国一律で同じようなサービスを受けられるというのも良い点だと思います。

ちなみに、公庫が主催する起業家教育の支援活動「高校生ビジネスプラングランプリ」では、全国の高校生から3,000を超えるプランの応募がありました。各支店で出前授業などもしています。「敷居が低い」、「親しみやすい」、という方向で努力をしていますね。

融資なのに負債扱いじゃない。資本制ローンは資金調達の強い味方

石井:公庫の「資本制ローン」もオススメです。「資本性ローン」とは、新規事業等に取り組む中小企業の財務体質強化のために、資本性資金を供給する制度です。この制度の最大の特徴は、融資なのに、金融検査上は自己資本として扱ってもらえ、負債比率を気にしなくてよい、ということです。

大久保:資本性ローンは、数億円を調達しているスタートアップでも使っている人が多いですよね。

石井:「VC(ベンチャーキャピタル)から資金調達をするのだが、あまり出資額を増やすと、経営陣の株式持ち分が減ってしまう。融資とあわせバランスの良い資金調達をしたい・・・」という場合にも良い制度です。

経営支援に関しては中小基盤整備機構(中小機構)が、様々な活動をしてオススメです。J-Net21による情報提供、経営相談、販路開拓や海外展開の支援など幅広い分野で、中小企業支援施策のプロや民間専門家の応援を得ることができます。

地域においては、富士市産業支援センター「f-Biz」を筆頭に、岡崎ビジネスサポートセンター「Oka-Biz」、天草市起業創業中小企業支援センター「Ama-Biz」など「f-Bizモデル」が注目です。質が高く熱意のある専門家が、企業の強みや良いところを見つけ、徹底的に伸ばしていく支援モデル。「結果を出す」支援を実施しています。

起業家の視野を広げる手伝いをしたい

大久保:海外に起業家を派遣する、ということもしていますよね。創業手帳のコンサルを受けた人でも、行った人がいました。

石井世界のイノベーションの拠点に企業を派遣する「飛躍:Next Enterprise」プログラムがあります。今年は、シリコンバレー、オースティン、ヘルシンキ、ベルリン、イスラエルに派遣しています。

この事業の目的は2つ。一つは「派遣した企業に海外市場との取引を拡大し伸びて欲しい」というもの。もう一つは「海外の人に日本のベンチャーの技術力や強さを知らしめたい」というものです。

大久保:研修に参加している企業を拝見したのですが、若い企業が多く選抜されていましたね。

石井:コミットする意志が強い人や、エッジの効いたことをやりたい人であれば、社歴が浅くても大丈夫です。企業としての勢いがあることを重視しています。

派遣に参加した人同士で、新たなネットワークが生まれることもあるので、今後のビジネスにもっと幅が出てくると思います。

エンジェル投資の優遇とは?

大久保:話は変わりますが、起業家にオススメしたい制度のなかに、エンジェル税制もあると思います。この制度についても改めて教えてくれませんか?

石井:エンジェル税制は、もっと注目して欲しい制度の一つです。これは、創業間もない企業に資金供給をする投資家に対する優遇税制です。

投資家にとって「投資額を所得から控除できる」という大きなメリットがあるので、起業家の側で投資を呼びかける際にアピールできます。
最近は利用が増加しており、数億程度だったエンジェル税制の適用額が今年は約34億円まで伸びています。

大久保:3年未満、3年以上で制度Aと制度Bに分かれている、株式のオーナー持ち分86%以下である、といった規定はありますよね。

石井:そうですね。企業側の要件や、提出書類が多いことは事実です。しかし、創業時の手続きのほうが、要件がシンプルで、作成の書類も限られています。エンジェル税制の活用は、創業時から税理士などと相談して準備すればスムーズに進むと思います。

大久保:実は、創業手帳でも様々な方からエンジェル投資を受けています。ちなみに、エンジェル投資をする方には、どのような方が多いのでしょうか?

石井:事業に賛同してくれる個人ですね。比較的年齢が高い男性が多く、所得は2000万円以上が多数、経営者や起業経験者の比率が高いという調査があります。

エンジェル投資の理由の上位5は次のとおりです。

【エンジェル投資家が投資する理由】
    1位・起業の成長プロセスを楽しみたい
    2位・投資のリターンが期待できた
    3位・起業に対して責任を感じた
    4位・社会に貢献したい
    5位・自分の果たせなかった夢を実現してくれる

起業家の方は、自分の事業にかける想いを伝えて共感を得ると、投資につながるかもしれません。

大久保:確かに引退している経営者にとっては、能力が活かすことができますよね。企業の成長は面白いし、世の中の役に立つ。後輩を育てて、世の中にお金を回すことができるので、投資家にとっては良いことずくめですね。

石井:創業手帳のインタビューで出演している、IBM元社長 北城格太郎さんは70歳を超えられていますが、現役の投資家としてお元気に活躍されています。経営者の深い経験を活かし、後輩を育成するという活動が広がることはとても大事だと思います。

一方で、起業家の方は「良いエンジェルを選ぶ」ということが必要です。また、「誰に、どのくらい株式の持ち分を持ってもらうか」という部分は、後戻りできない話です。エンジェル投資を受けるためには、資本政策についてしっかり勉強するという姿勢も重要です。

起業家、投資家ともに成功例が多く出ることで、日本にエンジェル投資の文化が根付いて欲しいと思います。

「中小企業の生まれ育ちだから頑張る起業家や企業を応援したい」

規制のグレーゾーンを役所が教えてくれる!?

大久保:経産省の最近の取り組みに少し触れていただきましたが、他にはどのような活動をやっているのでしょうか?

石井:規制関連の支援もあります。新しい事業にチャレンジする起業家や経営者にとって、政府の「規制」は気になるところ。「規制にかかるのかどうかが分からない、事業を進めてよいのだろうか」と悩む場面もあると思います。経産省では、そんな規制のグレーなところの相談に応じる「グレーゾーン解消制度」という活動も行なっています。

また、企業ごとに規制緩和をする企業実証特例制度を実施しています。これは、安全規制などで企業が高い技術力などで有効な安全対策を講じた場合に規制が緩和される措置です。

大久保:それはスゴいですね。規制は政治家が動いて初めて緩和される、といったイメージを持っていました。

石井規制や制度が分かりにくくて新しいビジネスが進んでいないケースも度々あります。それは社会全体にとって損失ですよね。

大久保:少し見方を変えると「未着手のビジネスチャンスが埋もれているかもしれない」ということですよね。官公庁がそのような対応をしてくださるんですね。

石井:まずは、起業家や企業を支援する立場の我々ができることとして窓口を設けています。気になることがありましたら、ぜひご相談ください。

政府が新しい技術の最初のお客に!?

石井:政府調達も今、力を入れ始めている分野です。政府が新しい技術や優れたビジネスモデルの最初のお客さんになることで、企業にとってキャッシュフローと信用力を提供することができます。
内閣府では、政府が抱える課題を公示して、解決策を募集する「オープンイノベーションチャレンジ」という活動をしており、経産省でもこれを応援しています。

例えば、暴走する車をいかに安全に停止させるか、イベントの群衆の中で不審な人をいかに効果的に見つけるか、土砂災害の現場でいかに効率的に遭難者を見つけるか、といった課題に対して、新しい技術を使ったサービスを募集しています。ロボット、ドローン、センサ、IOTなどの新しい技術を持った企業に大きなチャンスとなると思っています。

日本の会社設立手続きは世界でもワーストクラス!?

大久保:今、私は政府の会社設立の規制の簡素化を目的とした「会社設立オンライン・ワンストップ検討会」の委員をさせてもらっています。そこでも議題に上がっているのですが、日本は会社設立までのステップが12段階もあって大変なんです。例えば、フランスの場合だと4ステップでできるので、検討会では起業家目線で意見を述べています。

石井:海外と比べると多いですね。

大久保:法務局以外に、公証役場、銀行、社保、国税、管轄の都道府県など、いわゆる政府以外にも実質的に行かないといけないところが多いんです。さらに、毎回登記簿謄本が求められることも煩わしいときがあります。これを一本化して欲しいという議論があるんです。各省庁、経済界、自分は起業家の声という立場で議論しています。もちろん、一筋縄ではいかないことが多いかと思いますが、委員の皆さんは前向きですね。

石井確かに、Tell us once、つまり「1回だけ手続きすれば良い」という原則を導入しようという動きがあります。同じ情報なのに役所の窓口が変わるとまた提出する必要があるというのでなく、一度、どこかの窓口で提出した情報を、複数の役所で共有し、再度提出してもらう必要をなくそうという試みです。しかし、まだまだ時間がかかると思います。

一方、「補助金などの申請書で同じことを書くのを減らしたい、オンラインで簡単に申請したい」という声に応える「ベンチャー支援プラットフォーム」という仕組みが動き始めています。12月上旬から、「日本ベンチャー大賞」の応募で導入しているのですが、このプラットフォームで申請をした企業データについては、データベースに保管し、ほかの支援制度の申請の際に再利用できるようにするというもの。補助金や表彰の申請の際に、企業の基本情報や強みのアピールなどを何度もゼロから書かなくてよいようにする仕組みです。

日本は確実に起業しやすくなっている

大久保:以前と比べると起業しやすくなった印象はありますが、起業家全体の動向としてはどうでしょうか?

石井:そうですね。開業率は5%と決して高くない数値ではありますが、以前と比べると増えています。まだ起業の数はアメリカ並みではないものの、日本の「起業に関心を持っている人が実際に起業する割合」はアメリカの20%に近い19%になっています。実は欧州より大幅に高いのです。
つまり、昔に比べると起業したい人はやりやすい環境になっているのです。

また、起業家がVCから資金調達をした額は5年前の3倍に、IPO(新規上場)は5倍に増え、さらには上場ベンチャーの時価総額が1.5兆から3.5兆円になりました。こういうことは過去に無かったと思います。もっと良くなるように、これからも支援を続けていきたいと思います。

中小企業の生まれ育ちの自分だからこそ、創業を応援したい

大久保:私は「起業に関して、同じようなことで困っている方に情報を届けると良いのでは?」というアイディアから、創業手帳をスタートしました。石井さんは、このお仕事を始めたきっかけ、原体験といったものはありますか?

石井:私は中小企業の生まれ育ちで、子供の頃から経営者、商売というものを見て育ってきました。「経営者を応援したい」という気持ちは、そんな体験からきていると思います。

行政官として、経営者を応援する中で、特に起業家やベンチャー経営者が苦労する場面には何度も遭遇してきました、一方で、新しい挑戦こそが雇用やイノベーションを創出し、社会にとって重要であるということも実感してきました。ですから、創業やベンチャーを応援しようと強く思っているのです。

大久保:起業家へのお話を伺いましたが、最後に起業支援者向け(投資家、士業、金融機関など)に向けてのメッセージをお願いします。

石井自分も気を付けているのですが、起業家やベンチャーの視点で話を聞き、行動しよう、ということですね。

また、横のネットワークを拡大すると良いと思います。支援者にも得意な支援、苦手な支援があると思います。得意なところはしっかりやり、苦手なところは他の機関や専門家にお願いする、皆で支援するという仕組みができたら良いと思います。

(取材協力:経済産業省/石井芳明)
(編集:創業手帳編集部)
BB-WAVE掲載日:2018年5月16日

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※従業員300人以下の中小企業等において(2017年8月MM総研調べ)

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