伝説の経営者・松下幸之助の元側近が語る「究極の経営手法」

社員に感謝と励ましを与え続ける

ーMBA的な知識の経営とまったく対極ですね。

江口:その通り、先ほどの話の中で松下さんは、資本回転率、利益率、バランスシートといった数字のことは何も言っていません。松下さんが重視したのはインビジブル・ファクターズ、目に見えない要因なんです。こういう商品を作ったから伸びたとか、こういう工場を作ったから成功したとか、売上利益率がどうのこうのということは1つも言っていないのです。

松下電器が成功した9つの要因を改めて考えてみると、それらはすべてひたすら社員に「感謝」と「励まし」「感動」「誇り」を与えている言葉だと分かります。

1つ目の要因に出てきた「自分が凡人だった」という表現は感謝ですよ。

2つ目の「優れた人材に恵まれた」というのも部下に対する感謝です。

3つ目の「会社の方針を明確に出すこと」も、それによって社員が努力の方向を知り、感動してやるわけです。

4つ目の「理想を掲げる」というのも、社員に誇りを与えたということでしょう。

「今はこんなに小さい町工場だけど、250年後には日本を楽土にする先頭に立つ企業になるんだ」と。そんな会社になるんだと言われたら、社員はまた感動もしますよね。

松下さんが社員に感謝と感動と励ましと誇りを与え続けることによって、松下電器は大きくなりました。まさに人間に焦点を当てた経営をやってきたことがよく分かります。

松下さんの経営の究極は「人間大事」です。また、経営哲学の中には「水道哲学」というものがあります。これは、道端で他人の家の水道の蛇口をひねって喉を潤しても文句を言われない、それは良いものが安くたくさん供給されているからだということです。

それからもう1つは、人間というのは本質的に宇宙の動きに順応しつつ、万物を支配する力が与えられているという考えです。分かりやすく言えば、1人1人の人間がダイヤモンドを持っている尊い存在なんだと。だから、尊い人間にふさわしい良いものを安くたくさん作ろうという発想になるんです。

ーすべてが合理的で、まさしく知恵の経営ですね。

江口:その通りです。日本の企業というのは、知恵の経営で大きくなっているわけです。

社員1人1人が偉大な存在で、そういう人たちにふさわしい品物を作っていかなければいけない、それにふさわしい接し方をしなければいけないという考えなのです。

ですから、部下を叱る時も部下に手を合わせながら叱る、心の中で手を合わせながら互いに接していく。それが松下幸之助さんの哲学だったのだと思いますね。

社員に感謝と励ましを与え続ける

(創業手帳編集部)
BB-WAVE掲載日:2015年07月01日