伝説の経営者・松下幸之助の元側近が語る「究極の経営手法」

松下電器が成功した9つの理由

松下電器が成功した9つの理由

ー松下幸之助さんは、松下電器が成功した理由をどのように考えていたのでしょうか。

江口:松下さんは「なぜ成功したか」ということはあまり言いませんでした。ところがある講演で「松下電器が成功した理由」というテーマをもらい、その中で9つの要因を挙げたんです。

1つ目は、自分が凡人だったから良かったと言っています。自分は学校を出ていないから知識がない。知識がないから多くの人に尋ねたら、みんながいろいろ教えてくれたと言うのです。私流に解釈すれば、松下さんはたくさんの人から話を聞いて、知識を消化しながら知恵にしていったということだと思うんですね。

2つ目は、人材に恵まれていたから良かったと言っています。社員数名の町工場として松下電器製作所を創立したのは大正7年です。その頃は尋常小学校から丁稚奉公に出るのが当たり前の時代で、大学や高校を出るのは稀なことでした。それにしても米粒ほどの町工場の会社に来てくれるのは、どこの会社も採らないような人たちばかりです。採用を決めても来てもらえない状況でした。

ある子を採用した翌日、松下さんは道の角まで行って本当にその子が出社するかどうか見に行ったそうです。姿が見えると嬉しくて、急いで店に戻って知らん顔でその子を迎えたんやと言っていました。だから社員というのは大事にせんとあかん、大事に育てれば育つもんやと。

ですから、人材に恵まれたというのは、松下さんが人材をよく育てていたということでしょうね。三流の人を二流にし、二流の人を一流にし、ついに世界に誇るワールドエンタープライズ・松下電器を作り上げた。採用した人材がみな導きに乗れる素質を持っていたという意味では、優れた人材に恵まれていたと言えるのかもしれません。

3つ目は、方針を明確に出したということです。松下さんは方針を明確に出して権限を与え、衆知を集めて感動させたのです。方針を出すことによって社員に努力の方向を示したということです。

4つ目は、理想を掲げたということです。今はこんなに小さな町工場だけど250年先はこうなっている、というビジョンがあった。10年、10年、5年で区切った25年を1節として、これを10節繰り返す。250年後は松下電気の力で日本の国を楽土にする、そういう会社になるという理想を掲げたのです。社員に将来の夢と誇りを持たせたわけです。

5つ目は、時代に合った仕事に取り組んだということです。松下さんは14?15歳の頃、大阪の街に電車が走っている様子を見て「これからは電気の時代だ」と感じたそうです。そこで手始めに大阪電燈株式会社(現・関西電力)に就職して検査員になり、電気の分野で会社を始めました。

今の時代で言えば、これからは高度医療先端技術、ロボット事業分野、再生エネルギー分野、スーパーIT分野、環境分野、バイオ分野、新素材分野の7つのうちのどれかに取り組めば、若い人たちが新しい発展を得られるのではないかと思います。時代のベクトルに合わない事業は失敗しますね。

6つ目は、派閥を作らなかったのが良かったと言っています。情報というのは下から上に上がっていきますが、社長派や専務派、常務派といった派閥を作ると、情報がそこで止まってしまいます。派閥がないことで、すべての情報がただ1人、トップのもとに集まるのです。

ところで、松下さんが設立した松下政経塾の合格基準は、「運が強いこと」と「愛嬌がある」の2つなんです。運が強いというのはともかく、なぜ愛嬌が必要かというと、愛嬌がなくブスッとして近より難いリーダーだったら、そんな人のところへ話を持っていこうという気にならないですよね。

愛嬌があれば人が寄ってきて、人が寄ってくれば情報が集まります。集まった情報を経営者が自分で統合し、的確な指示を出していくことができるのです。松下さんが派閥を作らなかったのは、そういうことに配慮したのだと思います。

7つ目は、ガラス張りの経営をやったということです。これは私自身のことになりますが、私は36歳からPHP総合研究所の経営を任され、売上げと利益、借金の額を毎月全社員に公開していました。経理内容を公開すると社員の意識が変わり、新入社員も確実に経営者意識を持つようになります。

「PHP総合研究所は松下さんの会社」と思っていた社員が「俺の会社」「私の会社」というように言葉が変わってきたのです。松下電器の社員も、ガラス張りの経営をやることによって「俺たちの会社だ」と思ってくれたことが成功の要因だったと松下さんは話しています。

8つ目は、全員経営です。これは自分の仕事もさることながら、会社の他の部署に提案してもいい、意見を言ってもいいということなんです。製造の担当者が「もっと取引先を吟味しよう」とか、営業の担当者が「もっとコストを抑えられる仕入れ先がある」といったように、部署にとらわれず全員が考えるのが全員経営です。

また、一般社員が「経営のやり方がおかしいんじゃないか」と経営陣に提案してもいいのです。この全員経営は、ガラス張り経営があってこそ実現できるものです。

9つ目は、自分たちのやっている仕事が公の仕事だということを社員に訴えたということです。給料のためにやっているのではない、多くの人たちの役に立つためにやっている公の仕事なんだと。だから手を抜いては駄目だ、絶対に会社を潰してはならないと訴えてきたのです。これによって社員たちは誇りを持つわけです。