伝説の経営者・松下幸之助の元側近が語る「究極の経営手法」

真の日本式経営は「金よりも人を大事にする」

真の日本式経営は「金よりも人を大事にする」

ー本当の日本式経営とは何なのでしょうか。

江口:ひと言で言えば「人間を追いかける経営」ということです。「人間を大事にするのが日本式経営」で、このやり方を貫き通せば企業は必ず大きくなります。明治以降、日本の企業がこれだけ世界的に大きくなったのは、「人間を追いかける経営」をやったからです。大きくならざるを得なかったわけです。

日本式経営をやるにあたっては、経営者は次の3つの要素を考えていなければいけません。

1つは「事業目標を達成する」ということ。目標を達成できなければ、何のための経営者かということになります。

2つ目は「人材育成」です。会社の発展に貢献できる質の高い人を育てていくこと。知識だけでは役に立ちません。経験に基づいた知恵、知識に基づいた知恵を出せるような人材に育てていくことが人材育成なんです。知恵を身に付けることができれば、学歴に関係なく登用したのです。

日本は学歴偏重と言われていますが、昔はそうでもなかったのです。とりわけ著名な昭和の経営者には、大学を出ている人はあまりいません。松下幸之助さんも本田宗一郎さんも、知識はないけれども知恵においては秀でていたのです。

3つ目は「事業の創造」です。事業を続けていると、必ず余剰人員が出てきます。例えば100人でソケットを造る事業を始めると、5年も経つと社員の知識と経験が豊富になり、技術革新によって今までの何倍もの量を60人程度で造れるようになります。余分な40人は足かせになるので、欧米式経営の観点から見ると赤字の要素となり、首切り、リストラの対象となるのです。

ところが昭和の日本の経営者は、この余った40人をコアにしてさらに新しい事業を考えました。ソケット事業で余った40人で今度は電熱器事業をやる。40人では足りないから、新たに60人採用して100人で電熱器の事業を始める。そうすると、100人だった会社が160人になるわけです。

ソケット事業も電熱器事業も、続けていくとまた人が余ります。するとまた次の「新しい事業のカード」を出していく。それが日本式経営なんです。

ホンダの創業者、本田宗一郎さんが油まみれになって造ったスーパーカブは、奥さん方が買い物で使うような簡易なオートバイでしたが、爆発的に売れました。それと同時に、普及すればするほど普及速度も遅くなり、人も余ってきた。ホンダはその余った人たちで、今度はちゃんとしたオートバイを作る事業を始めたのです。

オートバイで人が余ると、今度は4輪自動車の事業を始めました。だからホンダはどんどん大きくなり、ついに世界の自動車レースの最高峰であるF1グランプリに参戦する車を作るようになっていったわけです。

このように、次々と事業の戦略を考えていったのが昭和の経営者です。安易にリストラをしない、わが社の発展のために一度は採用した人じゃないか、大事な人として採用したじゃないかという想いが強かったんですね。

つまり日本式経営は人間を第一に考えていたのです。年功序列、終身雇用、企業内労働組合は、決して日本式経営の本質的な側面ではありません。

ー確かにそこは本質ではなく、外形的なものですね。

江口:今の日本には、アメリカのハーバード大学のビジネススクールで、MBAやPh.D.(博士号)を取るのが格好良い。そしてふた言目には「ハーバード・ビジネススクールではこういうやり方をしています」というような風潮があります。

ところが結局、それで日本の企業は全部駄目になってしまった。パナソニックは凋落し、ソニーはのたうち回り、サンヨーはあっという間に消え、シャープは消滅しかかっているという状態です。

今、日本の経営者は経営の舵取りに戸惑い立ち止まっている状態です。アメリカ式経営もうまくいかなかった。さりとて日本式経営も駄目だったと。私から言わせれば、今すぐアメリカ式経営をやめて、「人間を大事にする本来の日本式経営」に戻るべきなのです。

若い経営者の人たちは「日本式経営は古い」と言いますが、それは古いのではなく「普遍的なもの」なんです。お金にとらわれるからお金が逃げてしまうのであって、人間を追いかけたらお金が寄ってくる。そこを知らないと駄目なんです。