松岡修造さんに聞く、起業家に必要な「伝える力」を伸ばすコツ

トークがうまくなる秘訣はとにかく練習すること

ー他にコミュニケーション能力を高めるために日常生活で実践していることはありますか?

松岡:本を読む時は、必ず思ったこと、感じたことを書き込んでいます。普通は印象に残る言葉などがあればその言葉を書き出しますが、僕はその言葉を読んで自分がどう思ったのか、どう感じたのかを書き留めるんです。そうすることによって、どんな場面でも、どんな人とでも、コミュニケーションをとることができるんです。僕が一番嫌なのは、相手やそのシチュエーションに操られること。テニスで言えば、ボールに操られる人はうまくなれません。自分が主体となってボールをコントロールしていくということが大事。

それから、トークはとにかく練習だと思いますよ。自分が感じたことを言葉にする機会をより多く作って、表現すればするほどそのポイントが分かりやすくなる。僕は『くいしん坊!万才』のレポーターを14年間やっていますが、料理に対する感想を考えて話したことはありません。考えたらそこで終わってしまうと思うので、食べて感じたことを僕なりの表現で素直に伝えています。

ー先ほど哲学書を読むのがお好きと言っていましたが、お勧めの本はありますか?

松岡:僕は中村天風さんという思想家が好きで、その中村先生の本は少なくとも力になると思います。中村先生は深刻な病気にかかった時に自分の心の弱さを感じ、そこから物事をすべてプラスに捉える「絶対積極」という考え方を取り入れ、日々心の修業をしていたそうです。いつも僕はそれができればいいなと思っていて、中村先生の言葉を自分なりに変えて鏡に語りかけています。自分の心を変えるには、鏡に映った自分に言い聞かせながら話すのが一番早い。「怒らず、恐れず、悲しまず。正直、親切、愉快。力と勇気と信念とを持って……」といった言葉を、毎朝毎晩鏡に向かって唱えています。

相手が自分の言葉をどう捉えどう褒めれば良くなるかを考える

ー松岡さんはジュニアの合宿などで子どもたちを教えていますが、個性を伸ばすために大事にしていることは何でしょうか。

松岡:それは子どもの性格やバックグラウンドによります。ジュニアの合宿では、メンタルのテストをしてその子の家庭環境を見た上で、どうやって僕が伝えればいいかを把握してから接します。そこまでしないと失敗する可能性がある。怒っているだけでは相手に伝わりませんし、ひとつの言葉で傷付くこともあります。意外に思われるかもしれませんが、僕は感情に走って怒ることはまずありません。怒っているときは相当なストーリーを組み立てていて、自分の言葉を相手がどう捉えて最後にどんな形で褒めれば良くなるかということを考えています。

今は世の中的に褒めるということを大事にしていますよね。確かにそれは大事ですが、そこに至るまでの辛い状況や過酷な状況、失敗があるからこそ褒めることができる。その両方がないと成立しません。ですから、褒めるまでのさまざまな過程を見逃してしまうということは怖いですね。

ーそれはビジネスの世界で上司が部下に接するときでも同じでしょうか。

松岡:同じだと思います。本気でその人のことを思って成長してもらいたいと考えているんだったら、限界を超えさせるために一番辛いことを言うんじゃないでしょうか。僕はテニスを教えるとき、振り回しという過酷な練習をやったり、相手にとって一番嫌なことをします。あえてそういう状況を作るんですよ。