


自らの土地の精神にこだわるチリのワイン職人たち。
彼らが復活させた蒸気機関車に乗って、飲み放題のワイングラスを傾けながらワインの谷を横断してみた。
ワイン列車で味わうチリの酒と人
南米チリの中部、コルチャグア・ヴァレーの入り口であるサン・フェルナンド駅には、毎週土曜日になるとたくさんの人が詰めかける。週に一度運行されている蒸気機関車に乗るためだ。1913年モデルの57型機関車。南米で最初に鉄道がひかれた国であるチリを、かつて南北に縦断していた機関車だ。
現在は、ワインの谷と呼ばれるコルチャグア・ヴァレーを横断する。一度廃線になった鉄道を、谷にある5つの町と14のワイナリーが2004年に復興させたのだ。運賃は、およそ3,000円。コルチャグアの谷で作られたワインが好きなだけ楽しめる。
「ここにいる皆様に、チリからのメッセージがあります。いつでもここにいらして下さい。私たちは友達、同じ人間、兄弟であり心の友です。あなた方にたくさんの歌を捧げましょう」
車内のアナウンスだ。チリの人々は、よく飲み、よく歌い、勤勉でおおらか。そして何より大地からの恵みと仲間との時間を大切にする国民性らしい。
列車はおよそ2時間かけて、ワインの谷を横断する。
コルチャグアの土地と精神を反映した情熱のヴィンテージ
コルチャグア・ヴァレーに1946年に創業したワイナリー、サンタ・ヘレナ社がある。1970年代大手ワイナリーの傘下となったが、2002年に再び独立した。
「我々が目指したのはコルチャグアやその土地の精神を反映させた独自のワインをつくることでした。そのために独立する必要があったのです」
独立したその年、2002年が最初のヴィンテージとなったドン。「育ちが良い」という意味の頭文字だ。ドンのラベルには、ブドウ品種の表記がない。ブレンドした味の自信がその表れなのだ。
「ワインの個性を認めてもらうための努力です。他のワインと似たものではなく、私たちのワインを知って欲しいのです」
このワインのブレンドには3ヶ月の時間をかける。そしてラベルには、創業当時のワイナリーを描いている。独立に誇りを持ち、良いワインだけをつくりたいという一人一人の情熱がワインに込められているのだ。
人々が世界中から飲みにやってくる幻の酒
サンチャゴから西に100km、チチャの谷と呼ばれるクラカビに向かった。チチャとは、ブドウと天然酵母を使った甘いどぶろくのような酒だ。もともと、先住民がトウモロコシで作っていた酒だが、スペイン人の影響でブドウからつくられるようになったという。
チチャの仕込みは、毎年4月1日に始まる。
クラカビでは、2種類のブドウを使い、昔ながらの方法でチチャがつくられていた。搾ったブドウ液は鍋に移し、3時間火にかける。火入れすることで発酵がとまり、甘く酸味が少ない酒となるのだ。煮詰めたブドウは、土に埋めた甕に移され、3ヶ月から2年間熟成を続ける。独特のテイストが醸成される。
ブドウの楽園ならではのチチャは、9月の独立記念日に国中で飲む祝いの酒だ。
しかし、年間を通して世界中から多くの人がこの谷へやってくる。我々もチリでしか飲むことの出来ない幻の酒を楽しませてもらうことにしよう。